2080-06「はじめまして。PEGTH-F-03です」そう言って銀髪の少女は頭を下げた。 「小隊長の椙山だ。よろしく」 「李だ」 3人は昌吉基地に幾つかある小会議室の一つで、新しく編成された椙山小隊の形式的な挨拶をしていた。 「さて……PEGTH-F-03」 「いちいち製造番号を全部言うんですか、中尉?」 李がいつもの無表情を変えないまま突っ込んだ。 「それもそうだな。普段呼び名はどうしてるんだ?」 「あ、研究所では『スリィ』って呼ばれてました」 「『3』か。さっきのよりはいいが、あまり女の子の名前らしくないな」 「なら、名前を付けてあげればどうです?」 賢治は李のその言葉に、スリィが一瞬目を輝かせるのを見た気がした。 「ああ。ツゥがいいなら俺が考えてみようか」 「本当ですか?私は、是非お願いしたいです」 「決まりだな。……さて、本題に入ろうか」 李とツーが無言で頷く。 「ヒューマノイドについての書類は一通り見たが、実際の技能がどれ程かはまだ把握出来ていない。 まあ、普通の新兵が来ても同じ事だが、実力を把握するために今日はシミュレーションを行ってもらう」 ◇ バーチャルリアリティーを利用した訓練用シミュレーターは前世紀から研究されている。 その技術が誕生してから一世紀程経った現在、精密さはかなり進歩しており、 余程注意をしなければ実際の映像とシミュレーションを見分ける事は出来ないだろう。 最早、実戦との違いは命を賭けているか否かという一点のみと言って過言では無い。 ASDFで採用されているものは戦闘機械のソフトウェアとして組み込まれており、 実際と同じコクピットで実戦と変わらない戦闘をシミュレーションする事が出来る。 これらのソフトウェアの基礎部分は全ての機器で共通しており、強化外骨格と戦車での戦闘なども再現する事が可能である。 今、昌吉基地で行われようとしているのは実戦では前例の無い強化外骨格同士の戦闘であるが、 対戦車戦闘よりも接敵後の操縦能力が問われるためにこの実験部隊で好まれている訓練プログラムとなっている。 「第一プログラム準備完了。デュラハンの3人は準備完了しているかね?」 「いつでもいいぜ」 「完了している」 「さっさと始めようぜ」 鈴木、椙山、山本が答える。 「ファントムはどうじゃ?」 「OKだ」 「大丈夫です」 「行けるわよ」 新型機ファントムに乗る03、04、06も坂本技師に答えた。 このプログラムでは、各チーム強化外骨格3機による小隊規模の戦闘が再現される。 デュラハンに乗るのは各強化外骨格小隊の隊長3人のチーム。 ファントムには、テストの対象であるヒューマノイド達が搭乗している。 「よし。システム同期完了、プログラム開始」 ◇ シミュレーションの開始を告げる坂本技師の声と共に、 デュラハンのモニターに写し出された格納庫の風景は荒廃した市街地のそれに変化した。 「各機、散開して索敵」 椙山が山本と鈴木に指示を出す。 「了解」 「了解」 それを聞いた二人の機体は、クロウラーを展開して索敵へと向かった。 強化外骨格の戦闘の基本は、発見される前に攻撃を行う事である。 元々拠点制圧用兵器として考案され、軽量高機動を重点に置いた設計の強化外骨格は、 砲撃に対して非常に脆弱であるために、平坦な地形ではMBTに勝つ事はまずできない。 このような事情から複雑な地形を主戦場とするこの兵器は、強力なジャマーとステルス機能が搭載されている。 市街地、森林で探知される事無く装甲車両に接敵する強化外骨格は、守備に回った敵にとっては大きな脅威になるだろう。 しかし、このシミュレーションの敵は同じ強化外骨格である。 両者のセンサーが効かないこの状態では、索敵に向けるべき注意は対装甲車両戦闘の何倍にもなるだろう。 先に接敵後の操縦能力が求められると述べたが、それは索敵への集中力が途切れないことが前提となっているのである。 ◇ 「アタシが囮になるわ」 そう言ったのは、周りから「フォウ」と呼ばれている少女だった。 「やってくれるならやって欲しいな」 と、シックス――PEGTH-F-06が答える。 「危ないけど、いいの?」 「リスクは高いけど、それを恐れてちゃ勝てないって。相手は一応、センパイなんだから」 聞いていたスリィとシックスには、彼女がそう言いながら笑顔を作る姿を容易に想像できた。 「わかった。フォウが先行、俺達が後方で援護する」 「オッケー」 「わかりました」 三人は作戦を確認すると、ファントムを市街の中心に向けて発進させた。 ジャンル別一覧
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